SSブログ

インターホン [その他]

2012年6月29日(土)、少し蒸し暑い昼下がり、
私たち家族は、翌日に迫った隣街の○林への引っ越しの準備に追われていました。
この日、天気は晴れ、湿度は高め。
室内は荷造りをする私たちにとって、かなり暑くて、厳しい環境でしたが、
エアコンは既に撤去してしまっており、部屋を冷やすことはできません。

「だいぶ片付いてきたね。」
と、汗びっしょりになっている妻が、冷たいお茶を私に差し出しながらそう言います。
「一休みするか。」
もう終わりが見えてきたこともあり、
受け取った紙コップを左手に、私は床にどしゃっとへたり込みます。
妻も、お茶を紙コップに注ぎ、床に座りこみます。
ふと子供部屋に目をやると、
長男と次男とは、既にスポーツドリンクを飲みながら休んでいました。

さっきまで無風で、蒸し暑さを増幅していた室内に、
開け放した窓から突然すーっと風が通っていきます。
『おっ、いい風が吹いてきたやん。』
と思ったその時、
「ピンポーーーーーン」
と我が家のインターホンが鳴りました。

「はーい。」
と妻が玄関へ。
『誰が来たのかな。』
と思いますが、引っ越し業者さんも、電気業者さんも既に午前中に用を済ませており、
思い当たることがありません。

ほんの十数秒の後、妻が「?」という顔で戻って来ます。
「誰だったの?」
そう訊く私に、妻は、
「ううん、誰も居なかったの。」
と応えます。
「えっ?そう。いたずらかな。」
と、私が言い、まぁ、お茶でも飲んで休めばと言おうとしたその時、

「ピンポーーーーーン」

「私が行く。」
と言って、私は素早く玄関に行き、扉を開け、外に飛び出します。
「…。」
まるで、当然かのように、誰も居ません。
私は耳を澄まして、物音を探ります。しかし、何の音もしません。
2階にある我が家から下に降りるには、当然ながら階段があり、
忍者でもなければ、全く物音をたてず降りることなど不可能です。

ふと玄関に目をやると、怪訝そうに長男と次男も顔を出しています。
「おかしいなぁ。」
私はひとりごちて、玄関に戻り、もう一度回りを見回してから、扉を閉めました。
「なんやろ、おかしいよな。」
いたずらにしては、何かがおかしい-。
その時、妻も同じように思ったのか、
「私、暫く覗き穴から覗いておくわ。」
と言って、靴を履いたまま玄関から外を覗き始めます。
「これで、誰が押したかすっかり見ることができるよ。」
と、妻が言うと、
「でもこれで誰も見えないのにインターホンが鳴ったら怖いよな。」
と長男、
「えーっ、そんなあほなっ。」
と次男が言いいきったかいなかのタイミングで、

「ピンポーーーーーン」

妻が覗いているにもかかわらず、それは鳴りました。
「そんな。。。」
そう言って、凍り付いている妻の顔色を見て、
私は一瞬で何が起きたかわかりました。
すばやく玄関から飛び出し、階段の下、上、回りを見回します。
「…。」

「誰も居なかったの。」と妻。
「誰も居なかったのに、鳴ったの。。。」
わかってるよ、その通りだろうと私は目で言って、もう一度辺りを見回します。
その時、私はふとあることに思いいたり、もしかしてと思いました。
しかし、実際に口にしたのは別のことでした。
「夜、怖い時間に来たわけじゃない。脅かしに来たんとちゃうやろ。」
自分の中でその理由に気づいた私は、家族に向かってそう言い、
それから、私は両手を合わせ、あることを心の中で唱えました。

「さぁ、荷造り作業を続けるぞ。」
やや怖さを引きずっている家族を家の中に戻しながら、
「もう、鳴らないと思うよ。」
と続けます。
そう?と心配そうに言う妻は、まだ半信半疑、
子供たちもあれこれわいわい話しています。

荷造りを終えた頃には、もう夕暮れ時になっていました。
私が思った通り、その後インターホンはもう鳴りませんでした。
やっぱりそうだったのかと思い、私はまた両手を合わせます。
『ありがとう。』
もう直接は感謝の気持ちを伝えることはできないけれども、
私は精一杯、心の中で感謝の気持ちを念じました。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。